「ゴッホの自画像」と聞いて、あなたはどんな顔を思い浮かべますか?
耳に包帯を巻いた痛々しい姿でしょうか、それとも渦巻くような背景の中で鋭い視線を向ける姿でしょうか。
こんにちは、切り絵作家のコージー・ノア・ダニエルズです。
私は切り絵作家として10年、アクリル画で20年のキャリアを持ち、国内外の公募展での入選や展覧会への出展など、幅広い活動を行っています。

フィンセント・ファン・ゴッホは、その短い画業の中で30点以上もの自画像を残しました。
それらは単なる肖像画ではなく、彼の人生の苦悩、喜び、そして移ろいゆく精神状態を映し出す「魂の鏡」です。
実は私、かつてゴッホが愛した南仏アルルの街を実際に訪れ、スケッチをして過ごしたことがあります。 」
さらに嬉しいニュースがあります。
2026年、まさにそのアルル時代を描いた傑作《夜のカフェテラス》が、およそ20年ぶりに日本(東京・上野など)へやってきます!
この記事では、現役の切り絵作家の視点から、ゴッホの自画像が時代ごとにどう変化したのかを解説しつつ、実際にアルルの地で感じた「光」についてもお話しします。
そして記事の後半では、私が制作した「ゴッホの自画像」の切り絵図案を無料でプレゼントします。
展覧会に行く前に、ゴッホの人生を「切り絵」で追体験してみませんか?
目次
なぜゴッホは30点以上もの自画像を描いたのか?
ゴッホが生涯で描いた自画像は、油彩だけでも30点以上あると言われています。
レンブラントなど多作な画家は他にもいますが、これほど短期間に集中して自分自身を描き続けた画家は稀です。
なぜ彼は、執拗なまでに自分の顔を描いたのでしょうか。

モデルを雇う金銭的余裕がなかった現実
最大の理由は、非常に現実的なものでした。「貧困」です。
生前のゴッホは絵がほとんど売れず、弟テオからの仕送りに頼る生活をしていました。
人物画を描きたくても、プロのモデルを雇うお金がなかったのです。
しかし、鏡であればタダで手に入ります。彼は鏡に映る自分自身を相手に、人物描写の練習を繰り返しました。

自己探求と実験のキャンバスとして
ゴッホにとって自画像は、新しい技法を試すための「実験場」でもありました。
色の組み合わせ(補色関係)の効果を試したり、点描画法を取り入れたりする際、文句を言わずに長時間付き合ってくれるモデルは自分しかいませんでした。

彼はナルシストだったわけではなく、芸術を高めるために、ストイックに自分自身を見つめ続けていたのです。
【切り絵作家コージーの視点】
私自身も、一度完成させた切り絵作品をリメイクすることがよくあります。
完成した後で「ここはもっとこうすればよかった」という改善点が見えたり、新しいアイデアが湧いてきたりするからです。
また、その時々の自分の感情によっても、表現したいニュアンスは変わります。
リメイクして作品がアップデートされると、自分自身の確かな成長を感じることができます。
ゴッホもきっと、昨日の自分を超えるために、飽くなき探求心で鏡に向かっていたのではないでしょうか。
【年代別解説】自画像でたどるゴッホの生涯と作風の変化

ゴッホはどんな過ごし方をしてきたのかな?
ゴッホの自画像は、滞在した場所によって劇的に作風が変化します。
彼が何を見て、何を感じていたのか、その変遷を追ってみましょう。
パリ時代(1886–1888):暗い色調からの脱却
オランダ時代のゴッホは「ジャガイモを食べる人々」に代表されるように、暗く重い色調の絵を描いていました。

しかし、パリに出て印象派の画家たち(モネやピサロなど)と交流することで、彼のパレットは明るく変化します。

この時期の自画像には、点描画法を取り入れたり、麦わら帽子を被って画家としての自意識を表現したりするような、模索の跡が見て取れます。

アルル時代(1888–1889):日本の「浮世絵」への憧れ
パリの都会に疲れたゴッホは、太陽と色彩を求めて南フランスのアルルへと旅立ちます。
彼は日本への強い憧れを抱いており、アルルを「日本のような光に満ちた場所」だと夢見ていました。

この時期には、自分を日本の僧侶(ボンズ)に見立てた自画像を描くなど、日本文化への傾倒が色濃く表れています。
【アルル滞在記:南仏の光と創作の源泉】
私は20代の頃、ゴッホの足跡を辿って実際にアルルに滞在したことがあります。
有名な「アルルの跳ね橋」も見に行きました。

観光用に再現されたものではありましたが、南仏特有の明るい光に包まれた姿は本当に素敵で、強く印象に残っています。

「ゴッホはこの温かい光が射す場所で筆を動かしていたんだな」と、とても感慨深い気持ちになりました。
跳ね橋の横にある民家をスケッチしてこの空間を楽しんでみたのもいい思い出です。

アルルは街全体が柔らかい空気に包まれた、とても穏やかな街でした。
私は滞在中、レピュブリック広場にある「サン・トロフィーム大聖堂」をスケッチしました。


実はこの場所、《夜のカフェテラス》のモデルになったカフェのすぐ近くなんです。


こうした歴史とムードのある街に身を置くと、自然と創作意欲が湧いてくるのを肌で感じました。
【2026年、あの「夜のカフェテラス」が日本へ】
そんな思い出の地を描いた傑作《夜のカフェテラス》が、2026年5月から開催される「大ゴッホ展(東京・上野)」で来日するそうです。

私が現地で感じたあの柔らかい空気と夜の賑わいを、ゴッホはどうキャンバスに閉じ込めたのか。
約20年ぶりの再会を今から楽しみにしています。
サン=レミ時代(1889–1890):うねる背景と鋭い眼光
「耳切り事件」の後、精神を病んだゴッホはサン=レミの療養所に入ります。
この時期の自画像は、背景が青や緑の曲線でうねるように描かれているのが特徴です。
これは彼の精神的な不安や動揺を表しているとも言われますが、同時に、生命のエネルギーそのものをキャンバスに定着させようとする、画家の鬼気迫る執念も感じさせます。

衝撃の「耳を切った自画像」に隠された真実
ゴッホの自画像を語る上で避けて通れないのが、耳に包帯を巻いた姿です。
ゴーギャンとの共同生活の破綻
アルルで画家たちの共同体「黄色い家」を夢見たゴッホは、敬愛するポール・ゴーギャンを呼び寄せます。

しかし、性格も芸術論も正反対だった二人の生活はわずか2ヶ月で破綻。
激しい口論の末、ゴッホは発作的に自分の左耳の下部を切り落としてしまいます。
包帯姿の自画像が伝える「再生」への願い
この事件の直後に描かれたのが「包帯をしてパイプをくわえた自画像」です。
痛々しい姿ですが、その表情は意外にも穏やかで、背景には赤とオレンジの大胆な色が使われています。

傷を負いながらも絵筆を握り、キャンバスに向かう。「絵を描くことで正気を取り戻したい」「もう一度やり直したい」という、彼の切実な祈りが込められているように見えます。
【コージーの視点:描かずにはいられない「業」】
「表現したい」という強い衝動は、モノを作る人間なら誰しもが持っているものです。
ゴッホは、言葉ではうまく伝えられない内面の叫びや願いを、「絵なら伝えられる」と信じていたのかもしれません。

私自身も、時間を忘れて一心不乱に切り絵に打ち込むことがあります。
ゴッホの抱えた苦悩の深さは計り知れませんが、絵描きとして「描かずにはいられない」その気持ちは、少しわかるような気がします。

現役切り絵作家が読み解く!ゴッホの「線」と「色」の凄み
私は長年アクリル画を描き、現在は切り絵作家として活動していますが、作り手という視点から見るとゴッホの凄さがまた違って見えてきます。
うねる筆致(タッチ)は「切り絵」の線に似ている?
ゴッホの最大の特徴である、あの厚塗りでうねるような筆致(タッチ)。
実はこれ、切り絵との相性が非常に良いのです。
ゴッホは絵具を置くように、一本一本の線をはっきりと残して描きます。
この力強い「線」の流れは、紙を切り抜いて残す「線」の美学と通じるもの

現代の私たちがゴッホの目に共感してしまう理由
50代になった今、改めてゴッホの自画像を見ると、若い頃とは違った感情が湧いてきます。
かつては「狂気の画家」というイメージが強かったのですが、今は、誰にも理解されない孤独や、老いへの焦り、それでも何かを残したいという純粋な情熱が、痛いほど伝わってくるのです。

【無料図案】ゴッホの自画像を切り絵で作ってみよう

ゴッホ自画像の切り絵図案をプレゼント!
お待たせしました。それでは、ゴッホの世界を自分の手で表現してみましょう。
絵を描くのではなく、ゴッホの自画像を切り絵にして、その「線」に想いを込めてみませんか?

今回、私が作成した「ゴッホの自画像」の図案を無料でプレゼントします。
ぜひ、この図案を使って切り絵を作ってみてください。

【利用規約・注意】
- この無料図案は、個人での制作・鑑賞・プレゼントなど 非営利目的 に限りご利用いただけます。
- 作品をSNS等に投稿する場合は、出典として「コージー(cozypaperart.com)」と記載いただけると嬉しいです。
- 図案や作品を 商用利用(販売・有料ワークショップでの使用など) することはできません。
- 図案データの再配布、加工しての配布、二次配布は禁止です。
- 学校や地域サークルなど、非営利のグループ活動で使用する場合は事前にご連絡ください。
色は「あなたの気持ち」で塗る
切り終えたら、色も塗ります。
その色は、必ずしもゴッホの絵の通りの色である必要はありません。
「あなたの気持ちの色」を塗ってください。
穏やかな気持ちなら優しい色を、情熱的な気分の時は激しい色を。
切り絵という表現で、あなただけのゴッホの自画像を作ってみましょう。

必要な道具
カッター
一般的なカッターナイフでも代用できますが、ペン先のように細く、小回りが利くデザインナイフが圧倒的に切りやすいです。

カッティングマット
机を傷つけないため、必ず用意しましょう。
A4サイズ程度が使いやすいです。
100均で売っています。

紙
切って楽しむだけなら黒い画用紙。
色を着けたい場合は白い画用紙を使います。
ダイソーの紙でも十分に作れます。


絵の具
カラー切り絵にするのに絵の具で着彩します。
水彩絵の具が使いやすいです。
水彩絵の具やガッシュ、カラーインク等、自分の好みで選んでみてください。

付録
切り絵の道具や材料については次の記事でも紹介しています。
ご覧いただき参考にしてください。
ゴッホ自画像の切り絵の作り方

作り方の解説だよ。
ここでは、初心者の方でも失敗しない基本的な作り方の手順をご紹介します。
図案を準備する
まずは図案をダウンロードして、A4サイズなどでプリントアウトしましょう。

用意した画用紙の上に図案の紙を重ね、作業中にズレてしまわないようにマスキングテープなどでしっかり固定します。
今回は色を着色するので白い画用紙にしましたが、色画用紙で切るだけでも素敵です。
お好みの方を選んでください。


カット〜内側から切るのがコツ
準備ができたら、図案の上からデザインナイフでカットしていきます。
切り絵の鉄則は「内側の細かい部分から」です。
広い部分や輪郭を先に切ってしまうと、紙の強度が落ちてヨレやすくなってしまいます。
目やヒゲなどの細かい部分から切り進め、輪郭は一番最後に切るようにしましょう。

絵の具で着色する
カットし終わったら、そこに筆で色を塗っていきます。

きれいに均一に塗ってもいいですし、あえてムラをつけて筆の跡を残し、表情豊かな感じにしてもOKです。
ゴッホの油絵のようなタッチを楽しんでください。

額装して飾ろう
絵の具が乾いたら完成です。 ぜひ額に入れて飾ってみてください。
自分で作った切り絵が額に収まると、一気にプロの作品のように見えて素敵ですよ。
部屋に小さな美術館を作ってみましょう。


まとめ:自画像を通してゴッホの人生に触れる
ゴッホの自画像は、単なる顔の記録ではありません。
それは、貧困や孤独、病と戦いながらも、最期まで絵を描き続けた一人の人間の生き様そのものです。
2026年の大ゴッホ展で実物を見る前に、ぜひ一度、切り絵を通して彼の「線」を追体験してみてください。
ナイフの先から伝わるゴッホのエネルギーが、きっとあなたの心を少しだけ熱くしてくれるはずです。

よくある質問(FAQ)
- Q. ゴッホの自画像は全部で何枚ありますか?
- A. 油彩画だけでも約35点〜40点ほど残されていると言われています(研究によって諸説あります)。
- Q. 「大ゴッホ展」はいつ東京に来ますか?
- A. 東京会場(上野の森美術館)は2026年5月29日(金)~8月12日(水)の予定です。目玉作品の《夜のカフェテラス》も展示されます。詳しくは公式ホームページを参照ください。
- Q. 切り絵初心者ですが、今回の図案は難しいですか?
- A. 曲線が多いので少しコツがいりますが、時間をかけてゆっくり切れば大丈夫です。自分の気持ちに合わせて楽しんで作ってください。
付録:あわせて読みたい名画シリーズ
ゴッホの他にも、私が敬愛する芸術家たちの世界を「切り絵」の視点で解説しています。
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それでは次回、またお会いしましょう!

















ゴッホは自画像がすごく多いんだよ。なぜなんだろう?